胃癌 NSAS-GC

Randomized controlled trial of adjuvant uracil-tegafur versus surgery alone for serosa-negative, locally advanced gastric cancer.

Nakajima T, Kinoshita T, Nashimoto A, et al. Br J Surg. 2007 Dec;94(12):1468-76. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
胃癌術後
(pT2N1-2)
術後補助化学療法 第3相 全生存期間 国内 あり

試験名 :NSAS-GC

レジメン:手術単独 vs 手術+術後補助化学療法(UFT)

登録期間:1997年6月〜2001年3月

背景

本試験が企画された時点では、根治切除後の局所進行胃癌に対する術後補助化学療法はメタ解析によって有意な生存期間の延長を示唆していたが、これを実証した個別の臨床試験はほとんど存在しなかった。術後補助化学療法の試験結果は、将来の研究が適切な標的集団の選定と、エビデンスに基づいた用量強度を高めた治療レジメンが必要になることを示唆した。
過去に行われた術後補助化学療法の大部分の試験では、他の薬剤と併用してUFTが用いられており、安全性を確保するために、UFTの一日用量は単剤療法で推奨される用量よりも少ない300-400mg(188-250mg/m2)が用いられていた。多剤併用療法の臨床研究は、pT2N1-2の中等度局所進行胃癌を対象とした試験において、手術単独群と比較してUFT+マイトマイシンCを用いた術後補助化学療法群で良好な生存期間を示したが、他は概ね、有効性を示せないか、ギリギリの生存延長を示すのみであった。
1997年、NSAS(National Surgical Adjuvant Study)グループは乳癌、大腸癌、胃癌に対して高用量のUFT単剤療法の大規模臨床研究を行うことを決定した。進行胃癌に対するUFT単剤療法(奏効割合 27.5%)の標準投与量に準じて、UFT 360mg/m2を5日内服2日休薬(16ヶ月間投与)を選択した。この投与スケジュールにおけるUFTの総投与量は多剤併用療法で一般的に用いられる投与量(210mg/m2, 連日投与, 18ヶ月間)とほぼ同程度であった。
本試験はこの投与スケジュールを用いて、根治切除が施行されたpT2N1-2の局所進行胃癌を対象に、手術単独療法に対するUFT単剤療法による術後補助化学療法の有効性を検討するために行われた。

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:全生存期間

過去の試験よりpT2N1-2の手術単独療法による5年生存割合は70%と報告されており、術後補助化学療法によってハザード比 33%の改善を期待した(5年生存割合で78.8%に相当)。片側α=0.05、検出力80%、登録期間3年、観察期間5年として、各群244例が必要と算出された。若干の不適格例を考慮し、目標症例数は500例と設定した。

試験結果:

  • 症例登録が予想よりも進まず、目標症例数に到達する前に試験途中で症例登録を終了した。
  • 1997年6月〜2001年3月の間に190例が登録され、手術単独群に95例、術後補助化学療法群に95例が割り付けられた。
  • 2例が無作為化後に最終病理組織診断の結果から早期胃癌であることが判明したため、不適格と判断し、最終解析から除外された。
  • したがって、188例(手術単独群 95例/術後補助化学療法群 93例)がITT解析に含まれた。
1. 患者背景
  • 主な予後因子は両群間でバランスがとれていた。
2. 全生存期間(主要評価項目)
  • 2003年12月に2年の中間解析が行われ、全生存割合は術後補助化学療法群で有意に良好であったことが確認された。
  • 2度目の中間解析(登録終了後 3年)が2004年11月に行われ、観察期間中央値は3.8年であった。本中間解析において、全生存割合は術後補助化学療法群で有意に良好であった(HR 0.46, 4年生存割合で13%の差違)。
  • 最終解析は登録終了後 5年の時点で行われ、観察期間中央値は6.2年であった。
  5年生存割合 HR 0.48 (95%C.I. 0.26-0.89)
p=0.017        
術後補助化学療法群 86%
手術単独群 73%
3. リンパ節転移状況によるサブ解析
全生存期間 HR 95%信頼区間 p値
pN1 0.52 0.26-1.05 0.061
pN2 0.40 0.12-1.34 0.124
4. 無再発生存割合
  • 2003年12月に2年の中間解析が行われ、無再発生存割合は術後補助化学療法群で有意に良好であったことが確認された。
  5年無再発生存割合 HR 0.44 (95%C.I. 0.25-0.79)
p=0.005        
術後補助化学療法群 85%
手術単独群 68%
5. 投与状況
  • 術後補助化学療法群で再発を認めなかった症例の内、治療開始後3ヶ月間に予定投与量のUFTが投与された症例は80%(73例/91例)、治療開始後16ヶ月間では51%(44例/86例)であった。
  • 術後補助化学療法群では、治療開始後3ヶ月以内に2例が再発し、16ヶ月以内に7例が再発した。
6. 有害事象
  術後補助化学療法群 (n=92) 手術単独群 (n=94)
  Grade 3 Grade 4 Grade 3 Grade 4
全有害事象 29/92 (32%) 1/92 (1%) 4/94 (4%) 0/94 (0%)
 好中球数減少 11/83 (13%) 0/83 (0%) 0/78 (0%) 0/78 (0%)
 貧血 1/91 (1%) 0/91 (0%) 0/92 (0%) 0/92 (0%)
 AST増加 1/91 (1%) 0/91 (0%) 2/92 (2%) 0/92 (0%)
 ALT増加 2/91 (2%) 0/91 (0%) 2/92 (2%) 0/92 (0%)
 血中ビリルビン増加 8/89 (9%) 0/89 (0%) 2/90 (2%) 0/90 (0%)
 悪心/嘔吐 1/92 (1%) 0/92 (0%) 0/94 (0%) 0/94 (0%)
 下痢 1/92 (1%) 1/92 (1%) 0/94 (0%) 0/94 (0%)
 感染 1/92 (1%) 0/92 (0%) 0/94 (0%) 0/94 (0%)
 食欲不振 6/92 (7%) 0/92 (0%) 0/94 (0%) 0/94 (0%)
 皮疹 1/92 (1%) 0/92 (0%) 0/94 (0%) 0/94 (0%)
  • 術後補助化学療法群の1例は投薬を拒否され、有害事象解析からは除外した。
  • 手術単独群の1例は患者希望により、有害事象解析からは除外した。
7. 全生存期間に対する多変量解析
  • 術後補助化学療法の有無(p=0.021)と性別(p=0.032)が有意に独立した予後予測因子であった。
  • 年齢(p=0.918)、壁深達度(p=0.539)、リンパ節転移の範囲(p=0.996)は予後予測因子にはならなかった。
8. 死因
  • 全ての原因による死亡:術後補助化学療法群で13例、手術単独例で28例
  • 術後補助化学療法群で他癌による死亡が2例、手術単独群で交通事故死が1例、死因不明が1例含まれている。
9. 再発部位
  術後補助化学療法群(n=93) 手術単独群(n=95) p値
全再発症例数 13 28  
 腹膜播種
 局所再発
 血行性転移
 遠隔リンパ節転移
4
0
9
3
3
4
14
11
0.680
0.050
0.290
0.010
結語
本試験により、根治的な胃切除術が施行されたpT2N1-2胃癌に対する術後補助化学療法としてのUFT療法の生存期間の延長効果が確認された。
執筆:九州大学大学院 消化器・総合外科 助教 中島 雄一郎 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生

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