肺癌 EURTAC

Erlotinib versus standard chemotherapy as first-line treatment for European patients with advanced EGFR mutation-positive non-small-cell lung cancer (EURTAC): a multicentre, open-label, randomised phase 3 trial

Rosell R, Carcereny E, Gervais R, et al. Lancet Oncol. 2012;13(3):239-246. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌 一次治療 第3相 無増悪生存期間 欧州 なし

試験名 :EURTAC

レジメン:エルロチニブ vs シスプラチン or カルボプラチン + ドセタキセル or ゲムシタビン

登録期間:2007年2月15日〜2011年1月4日

背景

非小細胞肺癌(NSCLC)のうち、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)遺伝子変異陽性例は約30-50%を占める。EGFR遺伝子変異陽性例に対して、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の有効性がIPASS試験など複数の試験で示されていたが、この試験が開始された2007年の時点では、従来の標準治療であるプラチナ併用化学療法とのランダム比較試験は行われていなかった。本試験は、未治療EGFR陽性非小細胞肺癌の患者を対象として、第一世代EGFR-TKIであるエルロチニブ(ERL)と、従来の標準治療であるプラチナ併用化学療法を比較した多施設共同無作為化非盲検の第3相試験である。

シェーマ

* シスプラチンが不適応の患者はカルボプラチンを使用
 カルボプラチン AUC=6 day1 + ドセタキセル 75mg/m2 day1 もしくは
 カルボプラチン AUC=5 day1 + ゲムシタビン 1000mg/m2 day1, 8

統計学的事項

主要評価項目:無増悪生存期間

本試験はEGFR遺伝子変異陽性例において、プラチナ併用化学療法(化学療法)を対照群としてERL単剤療法の優越性を検証した第3相試験である。過去の試験結果から、無増悪生存期間 (PFS) 中央値をERL10ヶ月、化学療法6ヶ月と仮定し、両側α=0.05、検出力=80%と設定すると必要なPFSイベント数は計135、必要症例数は計174例となった。

試験結果:

  • 2007年2月15日〜2011年1月4日の期間に42施設より173例が登録され、ERL群には86例、化学療法群には87例が割り付けられた。
  • 65%のPFSイベントが起きた時点(2010年8月2日)で、予定されていた中間解析の結果、早期有効中止となった。
  • 最終的なデータカットオフは2011年1月26日で、追跡期間中央値はERL群が18.9ヵ月、化学療法群が14.4ヵ月であった。
  • 両群間で、患者背景に明らかな差は認められなかった。
1. 無増悪生存期間(主要評価項目)
  中央値 95%信頼区間 (CI) HR 0.37     
(95%CI: 0.25-0.54)
p < 0.0001    
ERL群 9.7ヶ月 8.4-12.3ヵ月
化学療法群 5.2ヶ月 4.5-5.8ヵ月
2. 全生存期間
  中央値 95%CI HR 1.04    
(95%CI: 0.65-1.68)
p = 0.87    
ERL群 19.3ヶ月 14.7-26.8ヵ月
化学療法群 19.5ヶ月 16.1ヵ月-未到達
3. 奏効割合
  中央値 OR 7.5     
(95%CI: 3.6-16.5)
p < 0.0001   
ERL群 64%
化学療法群 18%
4. 有害事象
  ERL群 (N=84) 化学療法群 (N=82)
  Grade 1-2 Grade 3 Grade 4 Grade 1-2 Grade 3 Grade 4
皮疹 56 (67%) 11 (13%) 0 4 (5%) 0 0
下痢 44 (52%) 4 (5%) 0 15 (18%) 0 0
アミノトランスフェラーゼ上昇 3 (4%) 2 (2%) 0 5 (6%) 0 0
肺臓炎 0 1 (1%) 0 0 1 (1%) 0
食欲不振 26 (31%) 0 0 26 (32%) 2 (2%) 0
疲労 43 (51%) 5 (6%) 0 43 (52%) 16 (20%) 0
末梢神経障害 7 (8%) 0 1 (1%) 11 (13%) 1 (1%) 0
好中球数減少 0 0 0 15 (18%) 12 (15%) 6 (7%)
貧血 9 (11%) 0 1 (1%) 37 (45%) 3 (4%) 0
血小板数減少 1 (1%) 0 0 1 (1%) 6 (7%) 6 (7%)
発熱性好中球減少症 0 0 0 0 1 (1%) 2 (2%)

ERL群で最も多く認めた有害事象は、皮疹、アミノトランスフェラーゼ (AST/ALT) 上昇であった。
化学療法群で最も多く認めた有害事象は貧血、好中球数減少であった。
有害事象により試験治療が中止となった症例はERL群 11例 (13%)、化学療法群 19例 (23%)であった。
治療関連死亡はERL群で1例、化学療法群で2例であった。

5. サブ解析:無増悪生存期間 (ERL群 vs 化学療法群)
    症例数 ハザード比 95%信頼区間
全体   173 0.37 0.25-0.54
年齢 <65歳 85 0.44 0.25-0.75
  ≥65歳 88 0.28 0.16-0.51
性別 女性 126 0.35 0.22–0.55
  男性 47 0.38 0.17-0.84
喫煙歴 現喫煙 19 0.56 0.15-2.15
  元喫煙者 34 1.05 0.40-2.74
  なし 120 0.24 0.15–0.39
ECOG PS 0 57 0.26 0.12-0.59
  1 92 0.37 0.22-0.62
  2 24 0.48 0.15-1.48
遺伝子変異 Del19 115 0.30 0.18–0.50
  L858R 58 0.55 0.29–1.02
結語
未治療EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者において、ERLはプラチナ併用化学療法と比較して無増悪生存期間の有意な延長を示した。本試験の結果により、ERLはEGFR遺伝子変異陽性NSCLCの標準治療の一つとなり得ることが示された。
執筆:静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 レジデント 宮脇 太一 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 医長 和久田 一茂 先生

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