食道癌 JCOG9906

Phase II study of chemoradiotherapy with 5-fluorouracil and cisplatin for Stage II-III esophageal squamous cell carcinoma: JCOG trial (JCOG 9906).

Kato K, Muro K, Minashi K, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2011 Nov 1;81(3):684-90. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
局所進行食道癌
(T1N1M0 or T2-3N1-0M0)
一次治療 第2相 全生存期間 国内 あり

試験名 :JCOG9906

レジメン:5-FU+シスプラチン+放射線照射(60Gy)

登録期間:2000年4月〜2002年3月

背景

本試験の計画時、Stage II/IIIの食道扁平上皮癌に対する本邦の標準治療は3領域リンパ節郭清を伴う食道切除術とそれに引き続く術後補助化学療法であり、5年生存割合は36.8-61%と報告されていた。
一方、海外において化学放射線療法は切除可能/切除不能の食道扁平上皮癌に対する有効性が報告されており、T1-3N0-1M0の食道癌を対象としたRTOG85-01試験では、放射線単独療法の5年生存割合が0%であったのに対し、5-FU/シスプラチン併用療法と同時に50.4Gyの放射線照射を併用する化学放射線療法は5年生存割合を26%に有意に改善したことを報告した。このことから化学放射線療法は非外科的治療を希望する患者への標準的な非侵襲的治療として位置づけられている。
化学放射線療法は1990年代初頭に切除不能な局所進行食道扁平上皮癌に対する治療として導入された。T4 and/or M1リンパ節転移を有する食道扁平上皮癌に対する第2相試験では、 5-FU/シスプラチン併用療法と同時に60Gyの放射線照射を併用し、33%の完全寛解、23%の3年生存割合を示した。それ以来、化学放射線療法は外科的切除を拒否する切除可能な食道扁平上皮癌患者に対して臨床の場で用いられている。本邦における後方視的検討では同様のスケジュールによる化学放射線療法を受けたT1-3N(問わず)M0の食道扁平上皮癌患者55例において、完全寛解 70%、5年生存割合 46%を示し、手術と同様の結果が示唆された。以上より、Stage II/IIIの食道扁平上皮癌に対する化学放射線療法の有効性/安全性を評価する目的に第2相試験を実施した。

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:全生存期間

JCOG9204試験の結果より手術+術後補助化学療法群の3年生存割合が61%であることから、本試験では当初、期待3年生存割合を60%、閾値3年生存割合を45%と想定し、片側α=0.05、検出力80%で若干の不適格例を見込んで76例の登録を予定した。
しかし、JCOG9204試験が術後の病理組織診断(pStage)に基づいて症例選択されるのに対して、本試験は術前の画像診断(cStage)に基づくため、JCOG9204試験の対象よりも潜在的に進行例が多くなることが懸念された。そのため、2000年12月にプロトコール改訂が行われ、期待3年生存割合を50%、閾値3年生存割合を35%と再設定し、片側α=0.05、検出力80%で必要な適格例は67例となり、これに約10%の不適格例を見込んで目標症例数を75例とした。

試験結果:

  • 2000年4月〜2002年3月の間に76例が登録された。
1. 患者背景
  • 年齢中央値 61歳(範囲 42-70), ECOG PS 0/1 59(78%)/17(22%)
  • 深達度 T3が52例、リンパ節転移 N1が50例であった。
  • UICC-TNMによる臨床病期(cStage)は、IIA 26例、IIB 12例、III 38例であった。
2. 全生存期間 (主要評価項目)
  • 最終解析時点で49例が死亡しており、5例は5年以上の経過観察ができなかった。
n 中央値 3年生存割合 90%信頼区間 5年生存割合 95%信頼区間
76 2.4年 44.7% 35.2-53.8 36.8% 26.1-47.5
  • 3年生存割合の90%信頼区間下限が閾値3年生存割合(35%)を上回り、帰無仮説が棄却された(p=0.019)。
3. 無増悪生存期間
n 中央値 3年無増悪生存割合 5年無増悪生存割合
76 1年 32.9% 25.6%
4. 完全奏効割合 (CR割合)
  • 肝機能障害と登録後に深達度 T4であることが判明した2例は奏効の解析から除外された。
  n 完全奏効割合 95%信頼区間
全症例 74 62.2% 50.1-73.2
T1-2
T3
23
51
78.3%
54.9%
56.3-92.5
40.3-68.9
5. 投与状況
  • 53例(69.7%)が2サイクルの化学放射線療法+2サイクルの追加化学療法を完遂した。
  • 72例(95%)が60Gyの放射線照射を完遂した。
  • 23例で治療が中止され、その理由は病勢進行 10例、有害事象 11例、患者拒否 1例、その他 1例であった。
6. 急性期有害事象
  • 化学放射線療法完遂後、90日以内に生じた有害事象
N=76 NCI-CTC Version 2.0  
  Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 ≥Grade 3 (%)
白血球減少 5 34 32 1 43
好中球数減少 17 31 19 1 26
貧血 13 35 15 2 22
血小板数減少 15 13 4 0 5
嚥下障害/食道炎 29 14 13 0 17
悪心 25 20 13 - 17
嘔吐 16 6 0 0 0
下痢 10 5 1 0 1.3
口腔粘膜炎/咽頭炎 15 9 6 0 8
放射線性皮膚炎 18 4 0 0 0
発熱性好中球減少症 - - 1 0 1.3
好中球数減少の伴わない感染 7 8 8 1 12
低ナトリウム血症 40 - 11 1 16
AST増加 35 4 3 0 3.9
ALT増加 43 7 2 1 3.9
クレアチニン増加 15 13 1 0 1.3
  • 1例が化学放射線療法完遂後、21日で病勢進行による食道穿孔で死亡した。早期死亡と試験治療との関連性に関しては、効果・安全性評価委員会より「多分関連なし」と判断された。
7. 晩期有害事象
N=76 RTOG/EORTC late radiation morbidity scoring schema    
  Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 ≥Grade 3 (%) ≥Grade 4 (%)
胸水貯留 (非悪性) 24 5 7 0 9 0
食道炎関連
(嚥下困難, 狭窄, 瘻孔)
11 4 4 6 13 8
心嚢液貯留 6 5 9 3 16 4
放射線性肺臓炎 33 6 2 1 4 1.3
皮膚関連 3 0 0 0 0 0
脊髄関連 3 0 0 0 0 0
  • 4例が晩期有害事象により死亡した可能性が指摘された。死亡時期はそれぞれ登録後3.1ヶ月、8.5ヶ月、21.3ヶ月、27.8ヶ月であった。
  • 死亡理由は肺臓炎 2例、心膜炎 1例、胸水貯留 1例であった。
  • Grade 3/4の晩期有害事象は化学放射線療法開始から5年の段階で30.1%に認められた。
8. 救済療法
  • 化学放射線療法後、26例(34.2%)に病変の遺残や局所再発を認めた。全身状態不良や患者拒否を理由として、7例に化学療法、5例にBest supportive careが行われた。残る14例は根治を目指した救済療法が行われた。
  • 14例の内、11例が救済手術(遺残 4例/局所再発 7例)、3例が内視鏡的粘膜切除術やアルゴンプラズマ凝固法のような内視鏡治療を受けた。
 [救済手術]
  • 化学放射線療法開始から救済手術までの期間中央値は13.9ヶ月(範囲:4.0-22.7)であった。
  • 救済手術を受けた11例の内、6例が2-3領域リンパ節郭清を伴う食道切除術、3例が単純食道切除術、1例がリンパ節郭清のみを受けた。残る1例は術中所見にて広範囲のリンパ節転移を認めたため、切除不能であった。
  • R0切除を受けた7例の症例においては胃管再建が行われた。
  • 手術関連死亡/在院死亡は認めなかった。
  • 食道切除術が行われた10例における生存期間中央値は16.7ヶ月であり、3年生存割合は40%(95%信頼区間 12.3-67.0)であった。
 [内視鏡治療]
  • 内視鏡治療を受けた3例の内、1例はアルゴンプラズマ凝固法の3ヶ月後に縦隔リンパ節転移を認め、1例は内視鏡的粘膜切除術の1年後に認めた咽頭癌の手術関連合併症で死亡した。1例は5年以上生存し、疾患の再燃はなかった。
結語
本試験の結果より、化学放射線療法はStage II/IIIの食道扁平上皮癌に対して有効性を示し、急性有害事象も管理可能であり、非侵襲的治療オプションと考えられる。しかし、晩期有害事象については更なる改善が求められる。
執筆:北海道大学病院 消化器内科 特任助教 原田 一顕 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生

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